剪定と病虫害対策

 

■剪定次第で木の美しさも健康も大きく変わる

 剪定による樹形のコントロールは広さに限りのある庭では必要な手入れです。しかし、街で見かける多くの庭木や街路樹は「もったいない」剪定をされています。剪定によって木の姿は自由にコントロールができます。剪定によって今ある庭木の姿を見直すだけで、庭を広く感じられるようになったり、部屋が涼しくなったりと快適なものにすることができます。もう一つ大切なのが、剪定が木や庭の健康状態を大きく左右することです。方法次第で剪定によって木が弱ることも、木の治療になることもあります。剪定方法を改めただけで病気や害虫被害がなくなったり、果樹の実の味がとても良くなるといったこともあります。 

 

■剪定と木の健康の関係

 よく見られるのは枝の途中で切り詰めてゴツゴツした樹形になったものです(ブツ切り樹形)。この切り方は伸長を続ける木の大きさを維持するために仕方ないと思われていますが、実際はそうではありません。こうした樹形によって木がどんな影響を受けているのでしょうか。

 太い枝を切り詰めると、その場所から大量の徒長枝を噴き出すようになります。姿が見苦しくなる上に、風通しが悪く組織の柔らかい徒長枝で覆わてるため病害虫の格好の繁殖場所になります。 木の姿は川の水系の姿と、あるいは人の血管にも似ています。木の姿はこうした「流れ」の構造がそのまま表出していて、それは根元から徐々に細く枝分かれしていくことでスムーズで安定したものになります。枝の途中で切り詰めて枝が噴き出すのはのはダムの決壊に似ています。

 影響は根にも及んでいます。木は地上部(幹、枝葉)と地中部(根系)が対称のような姿をしていて、同じような反応が起きる性質があります。地上の姿を映すように根も荒くなり、支持力、水や養分の吸収力も損なわれます。免疫力は低下し倒木のリスクが高まります。組織の柔らかい徒長枝で覆われた木は病害虫の格好の繁殖場所になります。

 また、刈り込みを多用しすぎている場合もあります。現代の庭の環境から考えると木への健康面もそうですが、景色としても使い方を絞ったほうが引き立つ場合が多いように思います。

 

■剪定が病虫害対策にもなる

刈り込み時の内部
透かし剪定の内部

 

 木は自然に近い姿である方が健康になります。そのために使われるのが「透かし剪定」という方法です。しかし多くの剪定の本を見ても街の木を観察しても、「大きさのコントロール」のための最も重要な視点が欠けているようです。それは「枝を世代交代させる」ことです。木は全体に世代交代のための枝を必ず用意しています。通常それらは樹冠の成長とともに光量不足で枯れていきますが、剪定によって光を通せばゆっくりと成長します。樹冠内にバランス良く次世代の枝を育てていれば、樹冠になっている枝を元から取り除くだけでそのまま一回り小さなサイズになります。数年先を見越して樹冠になる枝を胴吹きから育て、剪定のたびに樹冠を世代交代できれば、大きさは維持できる事になります。

 この剪定が合理的なのは、「木の根本治療」や「土壌改良」の効果まであることです。適切な剪定をすると地上の姿を映す様に不要になった根を枯らします。地上部を健全な樹形にすれば、地中でも細根が充実して吸収力も支持力も優れた根系にする事ができます。剪定による枯死根は土壌に有機物を供給するとともに、通気通水性を高めます。根圏微生物も活性化し、木が健康になる好循環が生まれます。木が健康になると木の免疫力が高まり、「益虫」を養う事もできるために病気や害虫の大量発生することがなくなってきます。毎年行っていた農薬散布による「消毒」も必要なくなることもあります。

 

 

 

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