景観設計と生態系

■景観設計で目指すもの

「景観」は目に見える現実の様子のことを指す言葉ですが、特に都市部の景色と結びつきやすいです。一方、よく似た言葉の「風景」は「田園風景」のように自然に近い景色と結びつきやすいようです。そのせいか、どちらも英語では「ランドスケープ」なのに、日本語の「風景」にはなんとなく良いイメージがあって、「景観」にはそれがありません。人が密集して暮らす都市では「景観」は問題提起されるときによく聞きますが、イメージ的にはフラットな言葉です。

真夏日でも涼しい木陰の街路

関心の高さに違いはあっても、誰でも良い景観の中に暮らせることを望むと思います。「風景」の言葉のイメージからもわかるように、人は潜在的に自然の景色を心地よく感じます。つまり人の居場所=住まいにとって「緑」のあり方は大きなポイントになります。

都市では現在は自然が排除されがちです。これは街路樹や庭木のような都市の自然に対する多くの「誤解」によって、自然と人の暮らしが「対立」するものと認識されているためだと思います。

実際には、それらを正しく理解し取り入れれば人に多くのメリットをもたらしてくれます。例えば、剪定方法を変えるだけでも毛虫や倒木のリスクが減ると同時に、木が持っている防火、防塵、防風、騒音軽減効果が高まり、街が少し涼しくなります。

このような改善策はたくさんあります。今の都市緑化は1つのリスクを減らすために多くのメリットを失い、さらに他のリスクを増やすような無駄の多い方法がとられがちです。効果的な方法で緑が取り入れられるようになれば、街で緑はコストパフォーマンスの高い優秀な都市インフラであり、住まいの機能を高める優れた「設備」になります。

本当に美しい景観は見た目にも機能的にも優れたとても合理的なもので、それが広がるほどに効果が大きくなります。それは庭や街路樹などひとつひとつの緑からつくられていくことから、「景観を設計する」という意識を大切にしています

■景観設計と生態系

景観設計にあたり重要なのが「健全な生態系」をつくるという視点だと考えています。見た目も機能も優れた「美しい景観」の前提になるのが植物の健康です。同じ場所でも植物が生き生きしているのと弱っているのとでは、場所の雰囲気はがらりと変わります。

目立った枯れがなくても植物が苦しんでいることは意外に多く、毛虫の大量発生のような不快な現象も植物が弱って抵抗力が落ちていることが大きな原因です。植物の健康を支えるのが「健全な生態系」です。生態系というと規模の大きなイメージですが、小さな花壇や庭ひとつひとつに生態系があり、そこから考えることが大切です。「健全な生態系」は「植物が健康」であることにつながります。

最近、人の健康のための「腸内フローラ」という言葉をよく聞きますが、街中でも植物は鳥類から微生物までたくさんの生物の関わり合いによって健康を保ちます。多様な生物の植物連鎖によって生物相が拮抗してバランスを保ち、有機物が循環して半永久的に持続されます。健全な生態系は今私たちが心地よく暮らすために役立つもので、緑地の設計や維持管理でもその質を高めることができます。

例えば、シジュウカラという身近な野鳥は年間10万匹以上のイモ虫を食べると言われていますが、彼らの習性を利用して巣箱や水場を設けて「誘致」できれば毛虫の大繁殖の予防になります。

■植物の力を合理的に利用する

生き生きとした植物からは癒しや元気をもらえますが、不健康な植物からは無意識下でも逆の効果を受けます。その場所の地上の環境から地中の環境までを植物が健康に育ち「健全な生態系」がつくられていくようにデザインすることで、本来の美しさの他、先述の「高機能設備」としての効力も発揮することになります。

景観の「飾り」ではなく、人間の「頼れるパートナー」になります。

 

 

 

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